110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

時は流れず(大森荘蔵著)

 本書は挑戦的だ、哲学で使われる、時間、それも過去についての考え方を根本的に問い直す事と、哲学教科書にも出てくる、他我問題(主観・客観問題)を、言葉は悪いが切り捨てていく。
 後者の他我問題については、「哲学者(またはそういう事が好きな人)以外は、この問題で困っていないでしょう」という、現実的(?)な反問をする。
 この他我問題については、ここまで「ばっさり」と結論されると、いままでの読書が空しくなるが(笑)、市川浩氏の「身体論」でも、見方は違うが、本書の中で夏目漱石の「物心一如」を引き合いに出した事と同じ帰結に到るのではないかと思った。
 そして、ニーチェやハイデッカーなどと同様に、西洋哲学が、根本的な問題が起こった時点まで、一度後戻りした上で、再度理論を築き上げなおすことを示唆する。
 本書の最後には以下の様にある。
 ・・・私がこの新しい実在論を色即是空実在論と呼んだのはそのためである。それもまた「意識」という概念の呪縛から逃れるための解毒剤のひとつと見られるだろう。コギトエルゴスム、この称揚の的であった西洋哲学の看板をおろせば、その陰にかくされていた風景が表に出る。それは、「世界」と「私」はペアになって統合性序した経験を物語る二つの意味であり、だからともに「語り存在」という存在性をもっている、このことがみえてくる。そこに「意識」の意味を介入させてはいけない。

 本書は1996年刊行だが当時の反響はどうだったのだろうか?
 また、「色即是空実在論」は、氏の『時間と存在』に著されているとのこと、探す本が増えた。