110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

野火(大岡昇平著)

 本書は新潮文庫版で読む。

 武田泰淳氏の「ひかりごけ」をamazonで検索すると、何故か大岡氏の「野火」がペアで出てくる。
 何故かと思うと、双方とも、カニバリズムについての記述があるからである。

 しかしながら、双方の(小説の)場面設定は微妙に異なる。
 そして、本書(「ひかりごけ」もそうだろう)をその得意な状況設定で読み込むという事拒否することを、本書の解説を書いた吉田健一氏は記している。
 それは、この小説の世界が特異なのではなく、現在自ずから生活している、この世界が、同じように特異であることを、忘れてはいけないということを指摘しているように思う。
 本書を読んで、私は、ハイデッガーなどの実存主義哲学を背景に構成した小説だなどと、たかをくくって(批評しながら)読んでいたが、吉田氏の解説は、その高慢な意識を払拭してくれた。

 ただ、頭でっかちと言われようと、戦後のリアリズム系の小説に、そして作家に、もう少しはまって見たいのだ。
 ちなみに、この本は一度は読んでみるべき小説のひとつであろうと思う。
 (いや、ここに来られる方は既に読まれていることと思う)