110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

東條討つべし(室潔著)

 本書は朝日新聞社1999年刊行のもの。
 副題は「中野正剛評伝」とありこちらが本作の内容を適宜に表している。

 中野正剛は、ヒットラーを礼賛したり、開戦を主張したりしているので、過激なナショナリストの様に思えてしまう、そして、第二次世界大戦中に割腹自殺をするなど、その行動の派手さや異常さに目が言ってしまう。
 しかし、本書ではそういう外見的なものではなく、中野正剛の思想を追ってみよう(評伝)という趣旨だ。
 そして、表題のように東條秀樹と対立することなどからすると、もしかすると、もう少し再評価されても良い人物であるのかもしれない。
 中野氏は、当時の軍部主導、官僚主導の体制を批判し、あくまで、政治主導のもとに統制されるべきだという思想を持っていた。
 すなわち、日本の政治が弱いという認識をもっていたのだ。
 それは、第一大戦後のパリ講和会議での外交処理のまずさ、戦争に勝って、政治(外交)で負けたというイメージを持ったことによるのだろうか。
 何やら、最近のわが国を見ているようではないか?

 中野氏の、ヒットラーの礼賛は、今までの旧制度を打破して新しい体制に変えることが出来たという、その手腕を評価したものだということになるだろう。
 それは、あたかもローマ帝国の、カエサルが、共和制から君主制へと政治体制としては後退したかに見える改革を行ったことに似ているのではないか。
 腐敗した共和制を維持するよりも、統治者の意志が直接政治に反映される体制にすること、その効用が大きかったからではないのか。
 そして、そのシステムは、ローマ帝国の寿命を随分引き伸ばしたことになるのではないだろうか?

 斯様に、政治というものは重要なものだが、やはり、日本は「ものづくり」では一躍名を馳せたが、「政治」ということでは残念ながら未だに稚拙なのかも知れない(これは伝統かな?)。