110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

告白の哲学(鬼頭英一著)

 本書は公論社、鬼頭英一著作集の第八巻(最終巻)。

 今の時代、実存哲学もないのかもしれないが、この著者のものは少し毛色が違うようだ、ハイデッガーサルトルは、実存に対して死を対置させているのだが、鬼頭氏はその「死」そして「無」それ自体を追求した哲学者だったのではなかろうか?
 それは、当初から難航が予想される問題意識だった。
 そして、本著者はその問題の解決を実践的に行ってしまったようだ。
 
 ここまで、この著作集の全八巻のうち四巻を読んできたのだが、後期の作品なればなるほどその思索の逡巡、空回りが目に付くようになる。
 そこまで、踏み込む必要はあるのだろか、そして、神、宗教までその射程に入っていく時、それはハイデッガーも同じなのかもしれないが、それは哲学の領域なのだろうかと考え込んでしまう。
 ここには、論理だけでは解決できない問題があるのだ。

 そして、本書の巻末の編集者による、鬼頭英一という人物像について読んで見ると、その表面に仮面をかぶって生きてきた一人の人間(実存)が現れるのだ。
 それは、善悪を併せ持った、やはり人間の姿なのだが、そこに、言い知れない感慨を覚えることになった。
 
 さて、私は、(鬼頭氏の思索の)結末を先に読んでしまった形になってしまったが、最後に、とりおいたもう一冊を読んでもう一度感傷に浸ることにしよう。