110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

眞山青果全集第一巻

 本書は講談社刊行のもの、第一巻は「元禄忠臣蔵」で、読み始めたのは昨年のちょうど暮時、この時期は忠臣蔵をTVでやるから、読み終えたらちょうど良いブログネタと目論んでいたら、読み終えたのは、今、暑い時期とあいなったわけで季節感なんか微塵もない仕儀。

 忠臣蔵は物語としては面白いのだがいささかやっかいな仕組みであることはご存知のことと思う。
 確かに、仇討ちの法があった時代だが、一見美しい忠臣物語は、大衆を味方につければどんなことも許される式の無法物語と紙一重だ、上野介の取り巻きとは言え罪もない人を殺したことは事実だよね、それは、本編でも内蔵助にそのことを言わせている、自分らはやはり罪人であると。
 そして、その妥協の産物が、武士としての死である切腹ということになる。
 本当は打ち首でというのが法治主義というところかな?
 (浅野内匠頭吉良上野介の対立ならかくのごとく美談になりえるのだが、例えばこれが一つ階層が上に上がって徳川家どうしの仇討ちの構図となればどうかな?安穏としていられるかな)

 元禄時代という平和の中で、弛緩した気を引き締めるために、お上はわざと仇討ちを仕組むという伏線「御濱御殿綱豊卿」などはなかなか読み応えがある。
 でも、それはやはりどこかに歪な感じは残るな。

 全体を一読して「討ち入りの場面が無いのにこんなに読ませるとは凄い」と思ったが、実は構想にはあったようで、生前着手できなかったということらしくて、少しだけがっかりした。
 最初から討ち入りという派手な場面は描かないという構想ならば凄みがあったのだが。

 本書は、古本屋の100円棚で見つける、こんな立派な本が100円なら枕かわりでも重りのかわりでもなんでも良いと思ったが、いささか苦労して読んだら意外な面白さがあった、全集を読破する気はないのだが、機会があれば何冊か読んでみたい作者のひとりとなった。