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ロシアとウクライナの“即時停戦”を求める、日本国内の声に感じる違和感・・・に感じる違和感

news.yahoo.co.jp

国連の機能が重要だが、その国連の機能を骨抜きにしたのは、別にロシアだというわけでもなく、アメリカも相当ひどいことをしている。

現在の今回の侵攻に対して中立的立場の国が頻出している状況にはそれなりの歴史的理由がある。

また、世界的なインフレを引き起こしたことは、ロシアだけの問題ではなく、G7・NATO側の失策であり、こういう経済状況が長引けば、和解を求める世界的な世論が沸き起こる可能性すらある。

どうしても、(私的な考えではたぶん意図的に)侵攻時点から、この事態の善悪を考える風潮があるようだが、それだけでは、いつまでたったも、問題の本質には到達しない。

ロシアとウクライナの“即時停戦”を求める、日本国内の声に感じる違和感
4/15(土) 8:51配信 週刊SPA!

 G7指導者に対して、「即時停戦」のためのロシアとウクライナの交渉の場をつくるよう求める――。4月5日、伊勢崎賢治・東京外国語大名誉教授、岩波書店の岡本厚・元社長など日本の学者やメディア関係者らが都内で会見を行い、そこで発表された声明「Ceasefire  Now! 今こそ停戦を」が波紋を呼んでいる。
 この声明に対して、SNS上で「ロシアに利する」等との批判が相次いでいるのだ。リベラルを自認するジャーナリストの志葉玲氏も、現地を二度取材した経験から「ウクライナの人々の多くは『即時停戦』には賛同できないだろう」「対案が必要だ」と語る。以下、志葉氏の寄稿を掲載する。

今、停戦して喜ぶのはロシアのプーチン大統領
 4月5日に衆議院議員会館で行われた「今こそ停戦を」の会見に、筆者も取材に行った。そこで発表された声明では「日本政府がG7の意をうけて、ウクライナ戦争の停戦交渉をよびかけ、中国、インドとともに停戦交渉の仲裁国となることを願っています」とあり、声明の呼びかけ人には、ジャーナリストの田原総一朗氏や上野千鶴子東京大学名誉教授などの著名人がずらりと並ぶ。この声明への賛同の署名集めや、新聞広告掲載のためのクラウドファンディングも行うそうだ。
「今こそ停戦を」という声明は善意に基づくものだろうが、ウクライナの人々の多くは支持しないだろうし、筆者自身も賛同できない。さまざまな論点があるだろうが、大きく二つに分けると、まず、第一にタイミングが最悪だ。
 呼びかけ人たちによれば、来月の広島県で開催されるG7サミットに向けて声明を発表、署名やクラファンを開始したとのこと。しかし今「即時停戦」を求めているのは、ロシアのプーチン大統領その人だろう。なぜならこの間、ロシア軍が総力をあげて行ってきたウクライナ東部攻略戦が失敗に終わりつつあるからだ。
 筆者は今年2月、ウクライナ東部の都市で同国最激戦地のバフムトを取材したが、同市はロシア軍の猛攻にもかかわらず本稿執筆の現在も陥落していない。仮にバフムトを陥落させたとしても、その周囲の防衛ラインは厚く、ロシア側が当面のゴールとしていた東部の重要都市クラマトルスクを奪うことなど、およそ実現しない状況だ。そのため、ロシア軍は無理に進軍するよりも、現在占領している地域を死守することに重きを置き始めている。
 他方、ウクライナ軍は欧米から戦車等を供与され、これから反転攻勢に出ようというところだ。だが、もし今「即時停戦」の国際的な論議が持ち上がれば、ロシア側としては現時点での占領地を固定化でき、なおかつ「我々は平和を望んでいるのに、ウクライナ側は好戦的だ」と、ウクライナ軍の反転攻勢をけん制することができるという訳だ。

ウクライナの人々がロシアへの妥協を拒む理由
 無論、ウクライナの人々こそが1日も早い戦争の終結を望んでいる。だが、現地で人々に話を聞くと「ロシアに妥協するような形での停戦には反対」という声が圧倒的に多い。それは「停戦してもロシア軍の時間稼ぎになるだけで、プーチンはまた攻撃してくる」との懸念があるからだ。ウクライナ東部ルハンスク出身の女性は「プーチンのせいで二回、避難させられている。一度目はドンバス戦争。二度目は今回の侵攻。もう、うんざり」と話す。
 ドンバス戦争とは、親ロシアのヤヌコビッチ政権が大規模な市民デモで2014年2月に倒れたことを契機に始まった、ロシアによるウクライナ東部への攻撃だ。ドネツク、ルハンスク両州(=ドンバス地方)で、現地の親ロシア武装勢力にロシアが兵器を供与し、ウクライナ軍と戦わせたほか、ロシア軍や同国の民間軍事企業も侵攻した。ドイツやフランスの仲介で停戦協議が行われたが、双方の停戦違反が相次いだ。
 ドンバス戦争は、日本では上述の「今こそ停戦を」の呼びかけ人らの主張を含め、「内戦」と表現されることがあるが、ウクライナでは「ロシアの侵略戦争」として今回の侵攻と地続きと見なす人々が多い。だからこそ、人々は「停戦はロシアにさらなる攻撃のため準備期間を与えるだけ」と感じているのだ。

ロシア軍占領下の地域にとっては「停戦=平和」ではない
 もう一つ「即時停戦」の大きな課題は、必ずしも「停戦=平和」ではないということだ。ロシア軍が占領していた地域では、同軍による深刻な人権侵害がくり返されていた。首都キーウ近郊の都市ブチャは、昨年3月、ロシア軍に占領されていた一か月間で400人以上の住民が殺害された。
 ロシア側は「ウクライナの自作自演」などと虐殺を否定していて、日本の親ロシア派の識者には同調する者もいる。昨年4月にブチャを訪れた筆者は、ウクライナ当局の助けなく独力で市内に残る被害者の遺体を探し、遺族や隣人等に話を聞いて、身元やされた時の状況を確認した。
 現場では、シェルターや屋内に隠れていた人々が水を求めて屋外に出たところをロシア軍に銃殺されたなどの証言を何件も聞いた。また、隠れている人々をロシア軍が連行して殺害したとの証言もあり、同様の証言はブチャ近郊のイルピンなど他の地域でも聞いた。これらの虐殺が「ウクライナの自作自演」ということなど、あり得ない。
 また被占領地域では、ロシア軍による性暴力も深刻だった。キーウ州警察のイリーナ・プリャニシコヴァ報道官は、筆者のインタビューに対して「ロシア軍による性暴力について、捜査を行っている」と話した。「ロシア兵士らが『子どもを殺す』と脅して母親を何度も強姦したり、別のケースでは5歳の子どもを強姦したとの報告もある」(同)。
 例え、「即時停戦」でロシア軍とウクライナ軍の戦闘が一時的に行われなくなったとしても、ロシア軍占領下の人々の命や人権が脅かされる状態は、真の平和とは言い難い。仮に停戦監視団/部隊が現地に派遣されたとしても、人権侵害抑制のため十分な役割を果たせるかは、これまでのPKO/PKF部隊の実例から言っても疑わしい。ロシアとの衝突を恐れた各国が停戦監視部隊の派遣を躊躇することも、十分にあり得ることだ。

中国など「中立国」への批判と対話が必要
 必要なのは「即時停戦」ではなく、「ロシア軍の即時かつ全面的な撤退」であろう。また、「今こそ停戦を」の声明は、欧米のウクライナへの兵器供与を批判しているが、それならば非暴力でいかにロシアの暴走を止めるかの具体的な提案をすべきだ。
 例えば、ロシアへの経済制裁に参加していない「中立国」、特に中国やインド、サウジアラビアやトルコなどへの働きかけを行うことは重要だろう。ウクライナ侵攻は侵略戦争を禁じた国連憲章に明らかに反する。「国連憲章を守れ」というド正論を訴え、中国などの「中立国」に「いつまでロシアをかばうつもりなのか?」と批判の声を高めていくことが必要だ。
 中国などの「中立国」が対ロシア経済制裁に加われば、ロシアには大きな打撃となり、戦争を継続することが難しくなるからだ。他方、中国がロシアとの関係を強化してきた背景には米中対立があるから、日本が仲介役となり米中対立の緩和を目指すべきだろう。それは、日本含む東アジアの平和と安定にとっても好ましい。
 日本のいわゆる左派・リベラルの一部には、岸田政権がウクライナ侵攻に便乗して改憲を主張して防衛費が増大することへの反発から、また欧米とロシアとの対立が世界大戦や核戦争に発展することへの危惧から、ウクライナに対しても反感を持ってロシアを擁護するという歪んだ反応がある。
 だが、リベラル・左派こそ、日本政府に対しては改憲志向や防衛費増大を見直すこと、中国に対しても国際秩序の回復や維持に貢献することを求めていくべきではないか。真に平和主義者であるならば、ウクライナの平和と東アジアの平和を両立する方法を模索すべきだ。
文・写真/志葉 玲