黙移(相馬黒光著)
本書は、ほるぷ自伝選集/女性の自画像(1980)版で読む。
この本を買ったのはだいぶ前の事、きっかけは「自伝の人間学(保坂正康著)」で、女性の自伝は男性には書けないところがある、というようなことに興味を持ったからだ、そこに紹介された本の中に本書もあったのだ。
保坂氏の著作の中で、一番凄いと紹介されたのが「何が私をかうさせたか‐金子ふみ子獄中日記」で、当時は絶版で結構高値がついていたのだが、現在は岩波文庫版でも入手できるので状況は良くなった。
さて、本書については、不思議な読書だったことを記すことになる。
購入当初、ぱらぱらと最初の方を読んでそのままに数年が経ったのだが、先日、TVで、新宿のおいしいカレーの紹介の中に「中村屋」が紹介されていた。
しかも、そのカレーは、インドから亡命したボース氏を中村屋(著書の経営していたパン屋)で匿っていた時に、本格的な(インド)カレーが無いという事で、監修を受けて作ったものだというのだ。
中村屋…どこかで見たことがあったなぁ、と思い、本書を紐解くと、ビンゴだった。
そのカレー誕生についての記載はなかったのだが、ボース氏のことが載っていた。
それは、今なら考えられない話だ。
有名なパン屋とはいえ、普通の人が、いきさつはどうあれ、インド独立運動の活動家をを匿うとは…まさに、事実は小説よりも奇なのだ。
そして、そのボース氏と彼女の娘が結婚する…?
老年になってから過去を振り返った形で書かれているからなのか、淡々とした文章で、一読で感動することはないのだが、よくよく考えてみると、波乱万丈な、とんでもない人生に、驚くばかりなのだ。