110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

迷走する帝国(塩野七生著)

 ローマ人の物語の単行本での12巻目(文庫版はまだリリースされていない)
 前巻で「ローマ帝国」の衰退の端緒を見たが、本作では、丁度紀元3世紀の前中期までの混迷した時期について書き記されている。
 ここでは、いかに「安全」が国家に必要かを理解することが出来る。ローマ帝国の場合は北方のゲルマン民族(蛮族)、当方のアジアの勢力(ペルシャ)そして南方のアフリカと、大きく3方向からの「危機」にさらされているが、この、紀元3世紀では、北方の防御ラインが機能せず何度と無く破られている。それは、一つに、蛮族と言えども「学習効果」により、より洗練した「手段」で「ローマ帝国の棒業ライン」に対応してきたこともあるし、長期の平和により「(軍事を知らない)不適切な皇帝」が選ばれた事にも起因する。
 そして遂に皇帝「ヴァレリアヌス」が(おそらく謀略によるものと書いてあるが)ペルシャの捕虜になってしまう事件が発生する。この象徴的事例により「ガリア帝国」「パルミラ王国(帝国東方部分)」の現出し、なんと「ローマ帝国」が3つに分断されることになってしまう。
 ただし、この時期にも「人材」は皆無と言うわけではなく、捕虜にされたものの「人材育成」では「先見の明」があった「ヴァレリアヌス皇帝」に育てられたとも言える「アウレリアヌス」により、この騒動は「鎮圧」される。
 さらに、それ以前にも、皇帝「マクシミヌス」のような、紀元1世紀頃の「強いローマ」をよみがえらせるのではないかと言うような「実力派」皇帝も何人か、この時期に輩出されるのだ。
 しかし、「マクシミヌス」は3年、「アウレリアヌス」は5年で、それぞれ「謀殺」されている。本来、外部からの侵略を抑え内政を安定化する時期に、内部の混乱で殺されているのだ。これが、この時期の「ローマ帝国」の特徴かも知れない。すなわち「悪い芽」も「良い芽」もお構いなしに摘んでしまうのだ。(その様な選択が非常に個人的な利害でなされているのだ)
 内政悪化は、この本の書かれた時期(211-284)に、22人の皇帝が生まれたことでも明らかであり、これらの政情不安が、特に蛮族の侵入により、農業生産性が落ちたこと、そして絶えざる戦争による、軍事費負担の増大、すなわち財政悪化による「経済の停滞」を引き起こした。
 山があれば谷があるように、どうもローマ帝国も、高い頂から少しずつ下り始めているようだ。
 そして、政情不安で先に希望が無いと「宗教」が台頭してくる。その葛藤が、次巻以降の一つの焦点になる。
 小泉さんから安倍さんに、その実力は未知数ながら、ある種、同一の方向性を持った「首相」がリレーされた(と思う)。その面では、政策が急変するという事は避けられそうだ。次には、いくつかある制度改訂についての評価になるだろう。

 そこで思い出したのは、この「ローマ人の物語」の中で、塩野七生さんは、以下のカエサルの言葉を何度と無く繰り返して書いていることだ。
 「いかに悪い結果につながったとされる事例でも、それがはじめられた当時にまで遡れば、善き意志から発していたのであった」