日輪・春は馬車に乗って（横光利一著）

　本書は岩波文庫版で読む、著者の初期短編など8作を収めたもの。

　この頃、岩波文庫でも緑版を手にする機会が増えてきた、それだけ日本の文学を読むことに興味を持ってきたのだろう、そして、それは私の心境変化であり、いわゆる無常ということなのだろう。

　さて、本作は本当に何の気なしに、100円で手に入るからという理由で手に入れた、そして、しばらく読まずにおいたものを、何の気なしに読み始めたら止まらなかった。
　そう、何事も食わず嫌いというのはあるもので、本作に収められた各作品は、それぞれ独特で、とても印象に残った、ことばの選び方、密度が濃いのだ。

　一見、何気ないところ、平和なところに、奈落が待っている、それはいとも簡単に忍び込んでくるのだ。
　それらは、決して現実には起こりえない（小説の上での）ことなのだが、それが却って、現実性を与えてくれるのだ。

　そんなことを考えさせられた作品である。
　本作は多彩な文体で描かれている、そこに著者の才気を感じる。