木(幸田文著)
本書は新潮文庫版で読む。
まずこの著者の文体はとてもすてきだ、それは多くの読者が認めていることだ。
そして本書は「木」について書かれている、この著者の手にかかると、木を通して人間の生老病死が窺えるのだ。
ひとりよがりな思い込みから「木」のことなどよく存じ上げていると、生意気な態度だったのだが、こんなところを読むと自分の浅はかさを思い知るのだ・・・
「あるとき植物のことなどをなにくれとなく教えて下さる先生と話をしていて、野中の一本立の大木ははすてきだといったら、すてきと思うのは勝手だが、なぜ一本なのか少し考えてみなくてはネ、・・・・良木良材をわざわざ一本だけ残す筈がないじゃないか、伐る手間さえ惜しむほどに人の生活は苦しいのだから、野山に一本残った木の評価はおのずから明らかといえる。人間の側からいえばそれは役立たずの無価値の木であり、木の側からいうなら、不運と苦難の末にやっと得た老後の平安というわけ、どうか一本残った木をすてきとだけで片付けないで、もっとよくみてやってもらいたい、ということだった。・・・・」
木についての散文なのだけれども、人の生活について真摯に訴えかけてくるものがある。
まずこの著者の文体はとてもすてきだ、それは多くの読者が認めていることだ。
そして本書は「木」について書かれている、この著者の手にかかると、木を通して人間の生老病死が窺えるのだ。
ひとりよがりな思い込みから「木」のことなどよく存じ上げていると、生意気な態度だったのだが、こんなところを読むと自分の浅はかさを思い知るのだ・・・
「あるとき植物のことなどをなにくれとなく教えて下さる先生と話をしていて、野中の一本立の大木ははすてきだといったら、すてきと思うのは勝手だが、なぜ一本なのか少し考えてみなくてはネ、・・・・良木良材をわざわざ一本だけ残す筈がないじゃないか、伐る手間さえ惜しむほどに人の生活は苦しいのだから、野山に一本残った木の評価はおのずから明らかといえる。人間の側からいえばそれは役立たずの無価値の木であり、木の側からいうなら、不運と苦難の末にやっと得た老後の平安というわけ、どうか一本残った木をすてきとだけで片付けないで、もっとよくみてやってもらいたい、ということだった。・・・・」
木についての散文なのだけれども、人の生活について真摯に訴えかけてくるものがある。