110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

エピクロス

 本書は岩波文庫版で読む。

 エピクロスの教説と手紙を収録したもの、ディオゲネス・ラエルティオスの「エピクロスの生涯と教説」という文書の中に、エピクロスの手紙や教説、断章が含まれていたので現代までその内容が残ったのであった。

 エピクロスというと「快楽主義」という構図・印象が一人歩きしてしまった様に思われる、殆ど、散逸して現存していない文書には、そういう内容のものもあったのかもしれないし、実際の彼の生存中には本書とは別の享楽的側面もあったのかもしれない、しかし、残った数少ないテキストを読む限りはそういう思想ではありえない。
 エピクロスの現在で言うところの自然科学への洞察は驚異的である、残念なことに当時それらの仮説は技術的にも証明することができなかったので、仮説のままになってしまったのだが、例えば、物体の自由落下についての仮説は1000年以上も進んでいた事を明らかにするのだ(そういう面では、プラトンアリストテレスの思想は足を引っ張ったのかもしれない)。
 彼の自然現象についての考察の特筆すべき所は、ある現象についての解釈(仮説設定)は、多面性を帯びているので、絶対的な説に拘泥することをしてはいけないと警告していることだ。
 例えば、星が動いているのか、地面が動いているのかというような多面的解釈が可能であるということだ。
 そして、ある絶対性に拘った考え方しかもそこに実証性がない状況では、容易に形而上・イデア的な陥穽にはまってしまう可能性を秘めていると思うのだ。

 さて、そのような自然科学的な洞察よりもなによりも、素敵なことは、彼の提唱した「心境の平静(アタラクシア)」というもの(倫理)哲学だ。
 その素晴らしさは理解されずに、文明は大きく足踏みをすることになった・・・と思うのだが(如何?)。