宮武外骨(吉野孝雄著)
本書は河出書房新社1980年に単行本として刊行されたもの、私は1992年改定初版の河出文庫版を読む。
この著者は宮武外骨の甥にあたる、そして、子供の時に外骨の死に立ち会うことになったのだ、それについては本書を読んでもらうとして。
現在の格差社会について、一見、異なるように見えても、戦前、明治大正期の社会も明らかな格差社会であったことは間違いなかろう。
そういう社会において異彩を放つのが本書で取り上げている宮武外骨という人物であり、本書は外骨の伝記という位置づけとなる。
外骨は、徹底的にいわゆる民本主義をつらぬく、役人・政治家・天皇たちが行った「権力の横暴」に盾をつくのだ。
だから、今こそ、そういう、日本人がいたことを知っていても良いのではないだろうか?
しかも、彼の作品を読むと頗る面白いので、単に楽しむために読んでも良さそうだ。
本書を読んでいても、とても、これがノンフィクションだと思えない破天荒さなので、是非彼の自伝をNHKの連ドラで作品化して欲しいと思う(南方熊楠、折口信夫、柳田国男、小林一三と現在でも名前の知れ渡った人々との交流もあるしね)。
私は、これなら朝起きてでも見るけれどもね。
ただし、何回も監獄にぶち込まれているので「教育上の配慮」から、却下される可能性は高いのだが・・・
彼の書いたものが本書には様々引用されているのだが、その中の一つを上げておこう。
「抑(そもそも)無産者が有産者を羨望し、疾(ママ)視するは有産者が其財産を悪用して妄りに無産者の企及し得ざる栄耀栄華を肆(ほしいまま)にするが故のみ。無産者が最も苦痛とする所はその要求を見せ付けられて而も之を獲得すること能わざるに在り。・・・富者にして道徳的享楽の遥に物質的享楽に優る者たる所以の実を示さば貧者は必ずしも物質的享楽の少きに煩悶苦悩せず、従って富者を撃滅して絶対の物質的平等を要求するが如き事なきを得べし。・・・」
当時は、社会主義的な風潮もあることを考えてみるとわかりやすいかもしれない、しかし、外骨にはそんな思想的な影響は微塵も感じられない。
そして、経済至上主義というのが、本来的にどうなのか、と考えてしまうような文章であると思うのだが、いかが?