110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

登山の黎明(黒岩健著)

本書は1979年ペリカン社刊行のものを読む。

副題に、「日本風景論」の謎を追ってとあるように、志賀重昂の著作の謎について書かれたものだ。

これに合わせて、2016年に上巻を読んだまま置いてあった「日本風景論(講談社学術文庫版)」の下巻を4年半の歳月を挟んで読んだ。

本書では、この講談社学術文庫版は「平易な現代語に直した」とあるが、私にとってはとっても読みにくい本であった。

まぁ、それはそれとして、本書で取り上げられた「謎」とは何かと言うと、「日本風景論」という、日本の登山の啓蒙に寄与し、実際の登山の実践的ガイドブックとしての役割を果たし、登山書として名著とされた本書の著者で、その後、山岳会の名誉会員にもなった、志賀重昂という人が、ほとんど登山らしい登山をすることもなく、その著作の一部は、当時の海外の旅行や登山に関する書籍から翻訳転用(剽窃)したというものではないか、というものであった。

そして、それは事実なのだが、著者は、明治と言う時代性から、一概に、非難されるべきではないのではないかと、やんわりと、フォローしている。

確かに、それぞれの時代にはそれぞれの価値観があるはずで、一面、古い時代の考え方を、今の目で見て批判することも重要だが、反面、当時の社会性では、どう評価されたかも重要な側面を持つであろう。

今が全てのように時流を評価することは、その時点に生きている人には当たり前のように思えるかもしれない、しかしながら、かつての戦争の時も、それを肯定的に捉えた知識人が多々見受けられたことからも、時世の判断はとても難しく、そこに間違いが潜んでいることがあることも、どこか頭の隅にでも記憶しておいて良さそうな気がする。

まぁ、本書のおかげで「日本風景論」の方も、ざっくりとだが読み終えることができたので、嬉しい。