110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

大衆の反逆(オルテガ・イ・ガセット著)

 なんで今頃「オルテガ」なのかという方もいらっしゃるでしょう?
 でも、この読書欄を観察すると「ローマ人の物語」から始まっていることから、後半の「世界を支配しているのは誰か」でローマ帝国に関する記述があるからという事になります。

 しかし、もっと驚異的な事は「本書」が19世紀から20世紀に掛かる時代を「対象」にして著されたものですが、今読んでみると、そこに書かれた「事象」がいちいち「当たっている」事に気づきます。それは「社会主義」であり「ファシズム」の凋落であり、欧州の連合(EU)であるわけです。
 また、最近「日本も変な犯罪が増えるなぁ」などと考えていくと「大衆人解剖の第一段階」での(かなり長い引用)、
「非常に長く、しかも天才的な過去の相続者であるこの新しい大衆は、彼を取り巻く世界に甘やかされてきたのである。誰かを甘やかすというのは、彼の欲望になんの制限も加えないこと、自分にはいっさいのことが許されており、なんの義務も課せられないという印象を彼に与えることである。こうした条件のもとで育った人間は、自己自身の限界を経験したことが無い。外部からのいっさいの圧力や他人との衝突のすべてから守られてきたために、そうした人間は、ついには、自分だけが存在していると思い込むようになり、自分以外の者の存在を考慮しない習慣、特に、いかなる人間をも自分に優る者とはみなさない習慣がついてしまう。・・・・(文庫版P80~)」
 おぉ、(すべての理由がそうだと短絡的には断定できませんが)明解ですね。

 さらに、最終章「真の問題は何か」では、
 「・・・若者(単に年齢を指している訳では無いと思う)たちが「新しいモラル」を口にする時はそのいかなる言葉も絶対信じてはならない。・・・」
 と、頭の悪い私をフォローしてくれる(新しいのが良いのではないのよ、飛びついてはだめよ)。

 さて、私は、1969年に「角川書店から(訳出)刊行された本書が「ちくま学芸文庫」で新たに刊行(1995年)されたものを読ませていただいたが、この「あとがき」も興味深い。
 1969年当時の「あとがき」は本書に余り共感がない様に見える、すなわち「これは当時のヨーロッパの問題でしょう」という様な感覚だ、ところが、1995年版「あとがき」では、当時の「日本」の状況にも「当てはまるのではないか」という形に変わってきている。
 そして、2006年の今読んでみると「興味深い」本であるわけです。

 また、意外と(・・・失礼)一気に読める本です。