110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

被差別部落一千年史(高橋貞樹著)

 本書は1924年に刊行されてすぐに発禁になったという戦前では幻の著作、現在は岩波文庫版で読むことができる(1992年が文庫版の初版で、私が入手したのは2003年の第20刷で本書が多くの人に読まれていることが伺える)。
 作者の高橋貞樹氏は本書を19歳のときに著した、お読みになるとわかるが、19歳にしてこの内容を書けると言い切れる人は少ないと思う(私はこの年でも無理だと思う)。

 本書の読み方は、2つあると思う、それは、被差別部落が形成された事象についての歴史的な考察としての前半部分と、明治時代に解放令が出され、表面上平等になりながら、実質的な差別を受け続けたことに対しての、「水平社」という社会的活動についての意志を表わしている後半部分だ。

 私は、本書の校注者である沖浦和光氏の絶賛する後半よりも、前半の歴史的な分析の方に興味を持った。
 それは、先だって、読んだ網野善彦氏の「日本の歴史をよみなおす」と幾分重複する話題だったからだ。

 しかしながら、本書を読みながら感じたことは、書物などに記されている、思想(イデオロギー)を解釈・理解することと、その思想を実現するためのに実践することは、本来関連があるはずだが、(私の)昨今の読書は、思想を理解しようとはするが、実践の伴わない批判的な立場にとどまっているなぁと思ってしまう。

 最近の思想系の本は、本書のような、行動を扇動するような著作は少なくなってきているように思う。
 それは、ある意味、人間がより理性的になってきた(進化した)結果なのか、それとも、単に年老いて消極的になったのかは判断が難しいところだ。