110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

愛妻記(新藤兼人著)

 本書は1995年岩波書店刊行のもの、私は、岩波現代文庫版で読む。

 著者の愛妻、音羽信子の死を悼んで、その生活を回想風に著したもの、最後に、音羽さんが昭和31年の中国旅行へ行った際の手記も掲載され、貴重な作品であると思う。

 全編、音羽さんへの愛情が見えるとても微笑ましい作品だ、いや、音羽さんの著者への愛が見えるとも言えようか、既に、二人とも老境に入っていながらも、このような関係を続けられるということは、一つの救いなのかもしれない。
 しかし、全て良いとも限らない、著者は妻子がありながらも、音羽さんと暮らした、だから、見方を変えれば、この著者はひどい人でもあるのだ。
 そう、人を見ることは、たくさんの見方があり、必ずしも、善い面ばかりではなく、その裏に、きなくさいものがこびりついていたりするのだ。
 さらに、難しくする要素は、時間というものだ、悪人正機説ではないが、かつて、悪をなした者が、回心(えしん)することについて、回心した悪者に対して、被害を受けたものはどう対応すればよいのだろうか?
 そこには「赦す」という言葉と、その(行為の)必要性が出てくると思うのだが、それならば、いかにして赦すのか?
 
 人間は、生きるには余りにも無知(無恥)だし、情報も少ない、さらに、時間という得体の知れないものが、人間自体を変えてしまうことを考えると、何か、恐怖を感じるところがある。
 実存主義の、死を前にする「不安」とは、少し違う意味だが・・・