110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

世界観と哲学の基本問題(藤沢令夫著)

 本書は1993年、岩波書店刊行のもの。

 藤沢氏の名前は見覚えのある方も多いことと思う、そう、プラトンの著作の翻訳者としても有名だからだ。
 そして、本書でも、現代的な問題「自然」「技術」「倫理」について、その根源を、プラトンアリストテレスをその筆頭とする、ギリシャ哲学の自然観へと遡る。
 最初の章では、ゼノンのパラドクス、イデア論と「第三の人間」のパラドクス、「背丈比べ」のパラドクスと3つのパラドクスについて解説している、ここでは、パルメニデスの思想を元に紹介している、それは、「・・・世界を理解するためには、感覚あるいは知覚にあたえられたものをそのまま信じてはならない、どれほど感覚には自明であっても、あくまで人間に与えられた思惟の力、論理的な思考の力、つまり『ロゴスの判定』にこそ従って解釈しなければならないという立場を明確にして、そういう立場から、ものが生じる、滅びる、変化する、運動するといったことは感覚には自明と思えるけれども、しかしロゴスの上の背理を含むがゆえに、それらは虚妄であるという断定を下しました。・・・」既に、はるか数千年前に、ロゴスに対する懐疑が持ち上がっていたわけで、逆に言えば、純粋にいま使っている「ロゴス」というものが何かを検討できたのかもしれない。
 その考察として、生まれてきたのが、パラドクスというものだということになる。
 そして、本書ではゼノンのパラドクスから原子論へという論旨が示される。
 原子論からは、プラトンアリストテレスの思考のフィルターを通して考察が進み、「自然」をどうとらえるのかという基本的な考え方に行き着く。
 プラトンは極端に言えば、数学をベースに理論を構築したが、それでも生命というもの、(私的には自然というもの)を、その根底に把握しているのに対して、アリストテレスは、唯物論(モノ)的な考え方をしているということだ。
 
 そして、そのモノ的な考え方が、今日まで影響を及ぼしているという。
 
 そして、悲劇作家アイスキュロスの作品からプロメテウスについての台詞を引用してくる。
 「・・・実は、プロメテウスが火や技術に先立って人間に与えた、もう一つの重大なものがあった。それは、人間に運命が前もって見えないようにしてやるための、『盲目的な希望』である。・・・」
 (とても紀元前の思想とは思えない)
 
 あとは、1990年という目線からの「自然」「技術」「倫理」への考察が3章にわたって展開する。

 哲学者、思想家は、かなり古い年代まで思想を遡る。それは、その古くからの考え方が現在にも影響を及ぼしている事を示すものだと思う。しかも、それが意識されない様に巧みに(現代の)思考の中に織り込まれていることに、気づいたからなのではないだろうか?
 最初にあった小さな誤差は、徐々に拡大して、大きな誤差になることがある、ということだろう。