110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

擬似現実の神話はがし(鮎川信夫著)

 本書は1985年思潮社刊行のもの。

 田村隆一からの関連で著者の本を読む。
 田村氏の著作で引用される鮎川氏の文章は硬質で(私には)読みずらいという印象があった。
 しかし、目の前に著者の作品があるのだからとりあえず一冊と思って手にしたのが本書である。
 確かに、私にとって難解な作品ではあるが、その文章に掛ける真摯さについては感動を覚えざるを得ない。
 そして、読んでいるうちに、著者のファンになってしまったのだった。
 既に25年前の著作だが、その文章が今に投影されたのが「批評と刃」という文章であり、「三浦(和義)事件」について批評されている。
 この事件は、本当の意味で真相は少なくとも私にはわからないのだが、そこで、著者は、ひたすら「事実」がどうなのかを求める姿勢を貫くのだ。
 これは、大変難しいことだと思う。
 なぜなら、その事象に、脚色も省略も思想も交えずに、その事実を伝えたり、現出すること、すなわち、字義通りに「事実」を伝えること、その難しさを味わうことができるのだ。
 だから、本書では、浅田彰ボードリヤールも批判の対象になるのだ。

 ボードリヤールは、私的には好感を持っていたのだが、なるほど、著者の立場から投射すると、そのような批判も可能であると思われるのだ。

 もう少し、著者の作品について読んでみたいと思った。