110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

忘れの構造(戸井田道三著)

 本書は1984筑摩書房刊行のもの、私は1987年初版のちくま文庫版を読む。

 著者も高齢になり「最近物忘れがひどうなってきた」という様な、そんな話から本書は始まるのだが、意外にもなかなか奥の深い展開をする一冊である。

 そもそも、忘れるということは、悪いことなのだろうか・・・・余り、深く考えないで答えをだすと「当たり前」だということで片付けてしまうかもしれない。
 試験問題に対して回答が出てこない。
 大事なプレゼンテーションで、何回も練習した台詞が出てこない。
 ・・・「忘れた」は死活問題である。
 そう、「忘れること」は、悪いイメージだ。

 しかしながら、自分の心臓などの臓器が動いている状況、いわゆる身体感覚を忘れることができないとすればどうだろう・・・そう、病気などすると表面化しますが・・・これは、大変不便ですね。
 また、犯罪の履歴、恥ずかしいこと、戦争体験などの大きな事件を、少しでも忘れることが出来なければ・・・私は、生きることが苦しくなりそうです?
 
 そして、これは論理の飛躍と考えられても致し方ないですが、人の記憶の集大成である「社会」、「国家」と呼び替えても良いと思いますが、もし過去の事象を忘れることが出来なければ、どうでしょう?
 個々の人間は、死んでいくのですが、国家はなかなか長生きします。
 もし、忘れることができなければ・・・・・?

 著者は、軽妙なエッセイの中に、考えること(哲学?)を織り込んでいる、最初は軽く読み飛ばすつもりが、そうはいかなかったという一冊。