110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

トヨタ生産方式(大野耐一著)

 本書はダイヤモンド社刊行のもの、知る人ぞ知るベストセラーである。

 トヨタの強みの1つはその生産方式にある、例えば、ジャストインタイムであったり自働化であったりし、その強みにより世界的な企業へと発展していったわけだ。
 さて、ここで本書を読んでみると、特に皮肉屋は「これはどうかな?」と疑問を呈するだろう。
 私は、TVを見ていて「スマイルカーブ」なるものを、野口悠紀夫氏が説明しているところに出会った、それは、アップル社と言うのは、スマイルカーブのはじめと終わりに強いのだという趣旨であった。
 はじめとは、設計開発(R&D)であり、終わりとは販売ということであり、その間の製造というところはファブレスという形で、他の会社にやらせてしまう(外注)というもので、この最初と終わりの部分は利益率が高く、間の製造部分は余り利益率が高くない、すなわち、高生産性、高利益率をあげるためには、この利益率の高い部分に企業投資を集中するのが望ましいという結論になろうか?
 だから、本書で取り上げられる、製造現場のムダをなくし原価低減による利益の確保というのは現実的なものかどうか、人件費の安い中国、東南アジアの工場に作らせてしまった方が現実的ではないか・・・という、考え方もできるだろうかな?

 しかし、ここで昭和53年の本書を読んでみて、ここにあるのは、実際の手法ではなくトヨタ生産方式の考え方だという趣旨を読むにつけ、著者の「当時の状況による問題解決」には、いくつかある選択肢の中から製造現場の改革をして、企業の強みとなったわけで、これが現在に至れば、同じような、さらに抽象化した方法論で、新しい強みを見つけ出す必要性があるだろう。
 だから、本書はそういう風に読んで面白かったし、さらに、著者が影響を受けたという、豊田佐吉氏や豊田喜一郎氏の言葉を引用して書かれた第三章「トヨタ生産方式の系譜」などは、何もないところから何かを創るということに関する、大きな熱意が感じられて、わが身の閉塞感(いろんなものはあるのに希望や夢がない)をさびしく思うのだ。