110円の知性

110円(税込)の古本を読んで得た知性とはこんなもの(消費税変更に合わせて改題)。

誘拐(本田靖春著)

 本書は1977年文藝春秋より刊行されたもの、私は、ちくま文庫版で読む。

 昭和38年(1963年)に起きた「吉展ちゃん誘拐殺人事件」についての、ドキュメントである。
 本書に、推理小説の様な面白さを期待しても無駄である、それよりも、人間の生き方について考えさせられてしまう本である。

 犯人の小原保は凶悪だと思ってしまう、被害者家族も最終的に犯人が極刑になったことで溜飲を下げたことだろう。
 しかし、本当にそうだろうか、服役後の小原は反省の日々を送りつつ刑の執行を待ち、従容として、刑に服して逝ったのだ。
 本書では、その小原の幼少期からの環境、服役後の生活にも焦点をあてている。

 人間には、短いながらも時間が与えられている、それは、どんな栄華もどんな不幸も、その時だけのものとして過去に押し流してしまう。
 しかし、人は、現在の感情で(特に怒りで)人を裁こうとしてしまう、それが本当の裁きなのか、いや、裁くこと自体に無理があるのか・・・それは、私には解答のできない問題なのだろう。

 小原を自供に追い込んだ平塚は、本件ではその手腕を発揮した、しかし、帝銀事件や3億円事件では逡巡することになる、これも、また現実世界の難しさであろうか?








 ちなみに、「地獄少女」のテーマ、人が人を裁くことの難しさ、そして、恨みの連鎖ということについては、本書にも漂ってくるテーマである。
 「人は弱いから見て見ぬ振りをする」という「(地獄少女)三鼎」のテーマもまたここに現れてくる。
 そして、その反動として、何かの形で自分を肯定すること、弱さを否定すること、それが、他人と干渉する時に怒りや恨みが発生する。